2018年10月、私は家族とともに葛尾村に移住し、「伊達鶏」で知られる食品製造業・伊達物産が新設した「かつらお農場」を管理しています。全3棟の養鶏場で年間約22万羽のブロイラーを生産。エサやり・水やりから室内温度まですべてコンピュータ管理で自動化しており、飼育中はほとんど人手がかからない仕組みになっています。
私の実家は伊達市の月舘(つきだて)で、祖父母の代から養鶏業を営み、伊達物産とは長いお付き合いがあります。長男の私は、いずれは家業に入るつもりで東京農業大学に進学しました。でも実際に継ぐのは40歳を過ぎたくらいかな、と思っていたんですよ。卒業後は小売店に就職し、養鶏とは無関係の仕事をしていました。その生活を大きく変えたのが、忘れもしない、私の24歳の誕生日に起きた東日本大震災でした。
震災前の葛尾村は畜産業が盛んで、特に冷涼な気候が養鶏には適しており、伊達物産と契約していた養鶏農家が4軒ありました。祖父は伊達物産向けの鶏を各地の委託農家から搬出する仕事にも携わっていて、私も小さい頃、よく祖父と一緒に葛尾の農家さんを訪れ、かわいがってもらったのを覚えています。
その農家さんたちは、原発事故後の除染で鶏舎をつぶさざるを得ず、ご高齢ということもあってみな廃業を余儀なくされてしまいました。そんな中、以前から葛尾で生産する考えもあった父は、2016年に株式会社大笹農場を設立。元契約農家さんの土地を活用して村の養鶏再興を計画したのです。そして、私もついに勤めを辞めて養鶏の道に入ることを決意し、昨年10月より、大笹農場から伊達物産へ出向する形で「かつらお農場」の運営にあたっています。
実際に自分で養鶏を始めてみて、「鶏は一生勉強だ」と言われた意味がわかりました。雛から育てて約45日で出荷するのですが、毎回育ち方が違うんです。難しいですが、その分おもしろさもありますね。「かつらお農場」の土地所有者である元契約農家さんも、養鶏の大先輩として、まだ新米の私や他のスタッフにもアドバイスをくださるのは有難いことです。
このほか3軒ある元契約農家さんの土地でも、大笹農場として養鶏を再開する計画を進めています。伊達物産向けの生産に加えて、中期的には独自のブランド鶏を開発したいですね。正直なところ、味の点ではもはやどの銘柄鶏も大差はないでしょう。それよりも、エサや飼育環境などの点で「葛尾でしか作れない」という鶏をていねいに育て、そうした付加価値を理解してくれる消費者に届けたいと思っています。
葛尾への移住にあたって、もちろん不安はありました。でも実際に住んでみると、周りは若い家族連れが多いし親同士の交流もあって、思ったより孤立感はありません。こうして、辞めざるを得なかった農家さんの思いも受け継ぐ形で養鶏ができるのはすばらしいこと。再び畜産で村を元気にできるよう、がんばりたいと思います。
文/写真=中川雅美
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