畠山はたけやま 浩美ひろみ さん | 浪江町

畠山はたけやま 浩美ひろみ さん | 浪江町

hana-cafe 店主

8年ぶりに浪江に帰還、カフェを開業

2019年5月に浪江町川添に戻り、7月にhana-cafeを開業しました。おかげさまで、町内にお住いの方だけでなく、避難先から一時帰宅した方が寄ってくださったり、フェイスブックを見てお越しくださったりする方もいて、いろいろなお客さまとの出会いとおしゃべりを楽しんでいます。

私の生まれは南相馬市原町で、ここ川添に嫁いできたのは27年前のことです。夫の実家は兼業農家で、大震災までは私もパートで働きながら農業を手伝い、夫の両親と3人の子供たちと暮らしていました。当時はここでカフェをやるなんて想像もしていませんでしたね。私たちは6年ほど前、避難先の茨城県ひたちなか市で家を建てました。そのときは、もうふるさとへ戻ることを諦めての選択でした。

でもその後、いろいろなことがあって、やはり浪江へ帰る決心をしたのです。

避難先を転々と

東日本大震災が起きた2011年当時、夫は仕事の関係でひたちなか市に単身赴任しており、私も3月11日はたまたま水戸の知人宅にいました。なんとかひたちなかへ移動して夫と合流し、10時間くらいかけてやっと浪江に帰り着いたのですが、翌朝には避難を呼びかける防災無線が聞こえて、さてどこへ逃げようかと。私の実家の原町へ行こうにも国道6号から海側はもう津波で通れなくなっていたし、家の前の国道114号はすでに(津島方面へ避難する車両で)混雑が始まっていました。それで私たちは、郡山へ向かったんです。郡山には、娘が4月からの進学に備えて仮押さえしていたアパートがあったので、そこにすぐ入居させてもらいました。

ところが15日にはまた原発が爆発し、郡山も危ないぞということになって。北海道の友人が招いてくれたものの、空港まで行くガソリンがなくて断念。夫は震災の3日後にはひたちなか市の職場に戻っていたので、私は義父母と子供たちを連れて山形方面へ向かい、新庄や酒田でホテルや旅館に事情を話して泊めてもらいました。その後、夫の両親は千葉の親族に迎えに来てもらい、私と子供たちは新潟へ移動。なんとか家を探して借り、そこでしばらく過ごしました。

そして4月、ひたちなか市の主人の勤め先の社宅に入居できることになり、やっと少し落ち着くことができたのです。子供たちも現地の学校に編入して新学期を始めることができました。

なんとかなる、なんとかする

ひたちなか市内に家を再建したのは、その2年ほど後のことです。前述のとおり、当時は浪江にはもう帰れない、と考えての決断でした。

そこで私は、パンづくりやお菓子づくりの教室を始めることになりました。もともとカフェめぐりが好き、お菓子づくりやパンづくりも大好き。いろいろ作ってみては周りの方に差し上げているうちに、「教えてほしい」という声をいただくようになったんですね。Hiro-panの名称でレッスンを運営し、一時はかなり力を入れていました。

ところが、ほどなく夫が病にかかり、仕事を辞めることに。家にこもって元気がなくなってしまった夫の姿を見ているうちに、私は再び将来のことを考え直し始めました。大きなきっかけは、2018年の初め、東京から訪ねてきた友人に浜通りを案内したときのこと。広野からずっと北上して途中でいろんな景色を見て、最後に浪江のこの場所に着いたとき、「ああ、やっぱり自分が帰ってくるところはここなんだ」と強く感じたのです。私たちは話し合った末、子供たちも手を離れたいま、川添の家を建て直して浪江に戻ることを決めました。

建て替えの際、最初はみんなが集まれるサロン的なスペースを作ろうとだけ考えていたんですよ。でも、図面を見ているうちに「カフェをやってみたい」という気持ちがどんどん大きくなってしまって・・・(笑)。といっても経験はゼロ。メニューもずいぶん試行錯誤しました。オープン直前は、もういろいろ考えすぎて怖くなってしまったんですけれど、友人から「まずやってみないと分からないよ!」と言われて、吹っ切れました。

おかげさまでオープンから3ヶ月、周囲の皆さんのお力もあって、ここまでとても充実した毎日です。ここが地元の皆さんにとって、食事だけでなく気軽に交流できる場になっていけばいいなと思います。ちなみに、店名のhanaは我が家の愛犬の名前なんですよ。ロゴは昔の実家にあった蔵をモチーフに、娘が考えてくれました。

再び浪江に住んでみて、やはり夜は灯りが少ないですし、食材の仕入れもまだ町内では難しいところもあって不便がないとは言えません。帰ると決めたときも周囲から、「なぜ?大丈夫なの?」と聞かれました。でも、住んでみればなんとかなっていますし、「なんとかするんだ」という気持ちこそ大切じゃないでしょうか。私たちのように帰町した人から、「(帰ってきても)大丈夫だよ」ということを発信できたらいいなと思っています。だれだって心の底では「本当は帰りたい」と思っているのですから。


hana-cafe

浪江町川添字上加倉232-2

電話:090-5599-5526

フェイスブック:https://www.facebook.com/hanacafe.hiropan81/

営業日時:月・水・金 11:00-15:00

※事前予約をお勧めします。


2019年9月取材
文/写真=中川雅美

浪江町