日本画との出会いは、小学生の頃に見た「マリンパークなみえ」にあった絵でした。素敵な絵だなと思って近くで見たら、見たことない砂糖菓子のような輝く素材で描いてあって、「綺麗だな、使ってみたいな」と惹きつけられました。後になって、それが「岩絵の具」という画材を使った、日本画だということを知りました。私の絵では、そんな美しい画材を使って、私が自然の中から感じた見えない何かも込めて、おとぎ話の1ページのような夢のある世界を表現しています。
絵を描くことは小さい頃から大好きで、ずっと描いていました。覚えているのが、幼稚園の頃に普通の画用紙では物足りなくなって「わたしはABCをもっと大きく描きたいんだ!」って家の壁(土壁)にクレヨンで描いて、すごく怒られたこと! いま考えると、純粋にそのまま大人になっちゃった気がします(笑)
震災でなくした大切なもの
多摩美術大学に進学して日本画を専攻し、大学卒業を目前に控えた頃、田舎に戻って絵を続けるか、都内で就職するか考えていたところに、あの震災が起きました。まず福島に戻ることが難しくなり、先が全く見えない状況で、東京に居ることにも不安を感じていたので、知り合いを頼って東京から札幌に引っ越しました。
浪江の実家は築百何十年という古民家だったので、小さい頃からちょっとした地震でも、すぐに庭に飛び出すようにしていました。家は潰れてしまいましたが、その習慣のおかげで家族は全員無事でした。ただ、うちは普段から波の音が聞こえるくらい海が近かったので、家は津波で流されてしまい…当たり前にあった、帰れば安心する場所が急になくなるというのは、なんとも言えない感覚です。心の置き場がなくなったようでした。新しい実家は郡山に建ちましたが、「実家」と呼ぶには、いまだにしっくり来ていない自分がいます。
そういうことがあったので、札幌でもしばらくは気持ちの整理がつかず、絵を描くことも出来なくなっていました。でもまずは自分の生活を立てなければと、北海道庁で避難者向けに臨時職員を募集していたので、半年の期限付きで働き始めました。その後、別の職に就いて、生活にも気持ちにもゆとりが出来てくる中で、絵を描けていない自分に対して、このままでいいのかなという気持ちが出てきました。小さい頃から近所の海を見て、あの海の向こうの世界に何があるのかなって憧れて、その気持ちで絵を描いていたのに、このまま海外に行けないままでいいのか、そういう葛藤を抱えていました。
本当に求めていたものに気付かせてくれた、パプアニューギニア
そんな時、知り合いが青年海外協力隊員としてパプアニューギニア(以下パプア)で学校の先生をしていて、現地の写真をSNSに投稿しているのが目に入りました。熱帯雨林の真緑に映えるショッキングピンクや真っ赤な花たち。それを見て、私はカラフルなものを求めていたんだ、と気付かされました。札幌に住んだのも、ただの偶然ではなくて、あの真っ白な世界にいたからこそ、本当に自分の求めるものに気付けたんだと、今では思えるんです。
そう気付いたら居ても立ってもいられず、仕事を辞めてパプアに飛びました。ちょうど日本からパプアの村へ本を調達して持って行く人を募集していて、その任務を買って出たんです。それが初の海外。本を届けた場所は、離島のジャングルの中にある小さな村で…ずっと憧れていた、思い描いていた世界が存在したんだ、という感動がそこにはありました。
パプアの部族の人たちは、それぞれの神様の格好をして踊ったり、マスクを作って飾ったりしていて、私には見えなくても、きっと何かがいるのかもしれない、そう考えるとすごくイマジネーションが湧いてきました。それから、目に見えること以上に、心に感じるものを大事にしたいなって思えるようになったんです。
縁をつないでくれた福島の伝統工芸品
本を寄付した後は、友達とオーストラリアを縦断する旅をしました。北端から南端まで下り、ゴール地点のシドニーまで7,000km。旅をする中でオーストラリアには、じっくり観察して描きたい動植物がいることに気付き、シドニーに知り合いが出来たこともあって、住んでみたいなと思うようになりました。それでワーキングホリデーという制度を使い、2014年5月から1年間、オーストラリアに移住することを決めました。
オーストラリアに住み始めたのはいいものの、どう外との繋がりを作ったらいいか分からなくて。ふと、シドニー在住日本人の情報掲示板のようなサイトを見ていたら、「イベントで福島の伝統工芸品を販売するボランティアを募集しています」という情報を見つけました。よく見ると、取り扱っている工芸品の中に、浪江町の伝統工芸品「大堀相馬焼」が含まれているではありませんか。是非お手伝いしたい!と思い、早速面接しに行ったんです。
面接でお会いした方は、とても素敵な日本人女性で、その方もデザイン関係の仕事をされていることもあり、私が絵を描いていることに興味を持ってくださいました。そこでは、東日本大震災の復興支援団体「レインボープロジェクト」が行うイベントの中などで、福島の工芸品をシドニーの人たちに紹介し、私も作品を飾る機会を頂きました。
オーストラリアに住んで1年が経ち、日本に帰国する時に「(福島の)工芸品の人たちに会ってみたら?」と背中を押してもらい、帰国後に白河だるまの工房にご挨拶に伺いました。せっかくなのでポートフォリオ(作品集)を持っていったら、作品をすごく気に入ってくださって。福島県庁で、県内の産業をサポートしている方を紹介してくださいました。
rooms(ルームス)への出展、そして会津の老舗和菓子屋「長門屋本店」さんとの出会い
県庁にご挨拶に行ったら、今度は「アッシュ・ペー・フランス」という会社で役員をされている、富岡町出身の佐藤美香さんを紹介して頂きました。佐藤さんは、東京で年2回開催されるファッションとデザインの合同展示会「rooms(ルームス)」のプロデューサーをされていて、お誘いを受けて、展示会を見に行くことになりました。そこでポートフォリオを見ていただき「よし、じゃあ舛田さん、次回の展示会に参加して絵を飾ってみなさい」と言って頂けて、2016年9月に代々木第一体育館で開催された、rooms33に出展することになりました。
福島県の工芸品などを扱う特別ブースがあるのですが、そこの一番奥に私のスペースを頂き、絵を飾りました。そこで出会ったのが、後に「羊羹ファンタジア ~ Fly Me to The Moon ~ 」のパッケージの絵を描かせていただくことになる、会津若松市の老舗和菓子屋「長門屋」さんなのです。
展示会が終わった後、主催会社を通じて長門屋さんから連絡が届き、その時まだ試作品だった羊羹の、パッケージを作るプロジェクトが始まりました。
長門屋さんは、展示会で私の作品を見て世界観を理解してくださっていたので、不安なく好きなように描かせてもらいました。鳥と月というモチーフは試作品の時点で決まっていたので、鳥と月を主役にしたちょっとファンタジックな絵にしましょう、という経緯であの絵が出来上がりました。
私と長門屋さんがコラボレーションしたのは、「福島CRAFTS and PEOPLE(http://fukushima-cp.com/)」という県のプロジェクトの一環で、完成お披露目会がデザイナーのコシノ・ジュンコさんのブティックで行われたんです。その2ヶ月後の2017年4月から、正式にお店での販売が始まりました。
「羊羹ファンタジア」は、切る場所によって絵柄が変わるアイデアとその美しさで、Twitterで話題になり爆発的に広がったことで、色んなメディアが注目し始めました。長門屋さんには毎日国内外から問い合わせが来るようになり、今でもアジア圏、中国や台湾から取り寄せの連絡がきているようです。
私が絵を続けられるのは、サポートしてくれる人に恵まれているから
私の方も羊羹ファンタジアをきっかけに、自分の出身地のことも相まって突然取材が増え、嬉しい反面、最初はどういう表現で喋ればいいのか、うっかり誰かを傷つけてしまわないかと悩んでいた時期がありました。でも、あるきっかけで吹っ切れて、無理に個性を隠さなくてもいいんだ、ありのままの自分で話そう、と考えられるようになりました。
浪江町の広報誌に出させていただいた時は、どういう反応があるか想像もつかなかったのですが、「明るい話題をもらえた」と喜んでくれる人や「頑張ってるね」と言ってくれる人がいることが知れて、嬉しかったし、ありがたかったです。
2018年9月に東京・西荻窪で個展を開いた時には、国内外から沢山の友人や応援してくれている人、福島の新聞社の社長さんまで来場してくださいました。
私が絵を続けたまま大きくなれているんだとしたら、応援してくれる友達、物理的にチャンスをくださる方、仕事をお願いしてくださる方、報道の力で支えてくださる新聞社やテレビ局の方、数えきれないですが、沢山のサポートをしてくれる人に恵まれているからです。
これから年を重ねてキャリアを積み、力を持つ人間になれた時、私がそうしてもらったように、誰かのためにサポート出来るような大人になりたい、そう思っています。
今まで私と私の作品に出会ってくださった全ての方に感謝しています。これからも絵を描くことを通して光を届けていきます。
文・写真=渡辺可奈子
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