転校生は大工の棟梁

転校生は大工の棟梁

富岡町教育委員会教育長・石井賢一さんよりご寄稿いただきました。

 7月のある日、富岡町の小中学校に転校生がやってきた。子供たちは突然の転校生を喜びと同時に大きな驚きを持って迎えた。この転校生があごひげを蓄えた大人で、さらに大工道具を繰り出しては、材木を切ったり、かんなを掛けたりの作業を始めたものだから。子供たちの目は道具を自在に操る転校生の姿に、もうくぎ付け。

これまで、「学校と地域が一体となり、まち全体で子どもを守り育てる。」を教育推進の方針として掲げ、幼稚園から小学校、中学校へと切れ目のない教育を展開してきました。

避難指示の一部解除後の居住者は少なく、その半数近くが高齢者で、多くの商店も休止されたままの今。「震災以前の教育方針を継承したい」と考えて再開した学校で取り組んでいるのが、子どもから高齢者まで様々な人が集い、互いに助け合い学び合う、誰もが学びの場の参加者になれる穏やかで緩やかな学校づくりです。

その取組の一つが、「プロフェッショナル転校生」。転校生には学校に短期滞在する中で学校生活を共有するとともに、空き教室やスペースで思い思いに制作活動等を行ってもらいます。子供たちは休み時間や放課後に転校生の制作活動の様子を見学・手伝うことで、アートや職人の技に直接触れることができます。ここでは、大人も学びの参加者なので教え教えられの関係はありません。大切にするのは「教えない。対話する。そして一緒になって考える。」ことです。

今回は、学校再開一期生となった子どもたちが、学校内に設けた交流スペースで使用する長テーブルを町に戻ってきた地域住民と一緒に製作し、永くそのシンボルとして残したいと考えました。テーブルの素材には、震災前に伐採され保管していた陸前浜街道並木の黒松を使用しました。共同作業中の地域住民の言葉や態度を通じて子供たちが富岡町への理解を深め、地域の歴史と文化を継承し、地域住民に活気や勇気を与えることにもなると思っています。また、その製作に当たってプロを招聘することは子どもたちが専門的な指導を受けながら、本物の技術や知恵、仕事に対する姿勢などに接して、働く大人の姿に触れる機会の創出に繋がると考えています。