野口のぐち 美佐子みさこ さん | 大熊町

野口のぐち 美佐子みさこ さん | 大熊町

株式会社 いんふぉ. 代表取締役
出身:大熊町

これからも「info」を育ててくれた相双地区への恩返しをしていきたい

私が代表を務める「株式会社 いんふぉ.」は、2003年に大熊町に事務所を立ち上げ、相双地区を中心とした地域密着型のフリーペーパー「info」を発行している会社です。

私は大熊町にあった和洋菓子屋「美好野菓子店」を経営していた両親の長女として誕生し、22歳まで大熊町で生活をしていたのですが、当時愛読していたアメリカの雑誌に感銘を受け、自分を変えようと半年間の予定で渡米しました。
だけど、気づいたら19年も過ごすことになってたんですよね(笑)。
アメリカでは日本旅行のオペレーション業務などを経験したのち、自ら人材派遣の会社を立ち上げて仕事をしていたのですが、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロの際に日本人スタッフを派遣していた世界貿易センタービルが被災。スタッフは命からがら逃げたのですが、その後情報網や業務も麻痺し大混乱となりました。
同じ頃、実家の両親が体調を崩したこと。また、私には2人の娘がいるのですが、日本で「ゆとり教育」が始まり、日本での生活を経験したことがない2人でもいまなら日本の教育に付いていけるだろうか…と考え、その3つの条件が重なったことで帰国を決意しました。

「info」発行のきっかけは、娘の病気

(株)いんふぉ.が携わる冊子や物品など

その後大熊町での生活が始まったのですが、娘たちは慣れない日本での生活にストレスを抱えてしまい、じんましんを発症してしまったんです。だけど、診察にあたってくれた医師がとても不親切で、その対応に不満を感じました。それを知り合いに話したところ、患者に親身に寄り添ってくれる医師を紹介してくれ、娘の症状も改善されました。
その時に感じたのですが、相双地区には素晴らしい医師や魅力的なお店、人々の知恵や情報が沢山あるのに、それを一つにまとめて発信する冊子がなかったんですよね。それではそれぞれの良さを充分に分かってもらえないと思い、「無いんだったら自分で作っちゃおう」と思い立ったのがきっかけです。一般の人たちが気軽に読める読者参加型の情報誌を作ろうと考え、2003年12月中頃、創刊に向けて誌面編集の準備が始まりました。そして2004年2月25日、紆余曲折の末、フリーペーパー「info」の第一号が発行されました。

震災後は南相馬市の鹿島区にて業務を再開

着々と周りから「info」が周知されてきた2011年、東日本大震災が発生しました。
正直な話、私はその当時の話はあまりしたくないんです。震災があった当日、私は出張で福島県から離れており、出張先のテレビから流れてくる生々しい光景をただただ呆然と見つめることしかできなかったからです。
娘たちや両親、会社のスタッフたち…みんなが大変な思いをしているのに、私は何も出来なかったという申し訳ない思いはいまも時折襲ってきます。
私自身は家族と共に郡山市へ居を構えたのですが、会社のスタッフたちは散り散りになり、それぞれの生活をスタートさせました。あの頃は一番淋しかったです。
そして同年4月から拠点を郡山市に移し、少しずつ活動を続け、7月1日からまた「info」の発行を再開。2012年5月に拠点を南相馬市鹿島区の仮設事務所に移し、本格的に相双地区での活動を続けています。

現在一緒に働いているスタッフの皆さん。もう一人は郡山に。

「info」の立ち上げから今年で15年。震災後は人材がなかなか集まらず、苦労した時期もありました。しかし、今は気心の知れた4人のスタッフと一緒に仕事を続けられていることに、本当に感謝しています。
私が今でも「info」を発行し続ける理由は、相双地区と常に寄り添いたかったからです。震災で色々なことがあり、みなさんが大変な目に遭い、苦しんできました。だからこそ、この地域の情報を発信し続けることが、育ててくれた地域の皆さんへの恩返しでもあるし、私に与えられた使命なんだと考えます。

相双地区は震災前「何も無い場所」と笑う人が多かったですが、何も無いんじゃなくて、何でも有ったんです。震災後は「地元は本当に良かったな」「帰りたいな」と語ってくれる方が増えました。皮肉なことですね・・・。人って、離れてみて初めてふるさとの良さ、大切さに気付くのかもしれません。
相双地区はいま、分断された地域の創生期にはいりました。どんな時代が来ても人間のコアなる部分は変わらないのではないかと思います。これからも、みんなが持っている情報を少しずつ集めていければ、地域のつながりはより濃いものになると信じています。
今の仮設事務所も今年11月で取り壊しになるため、出て行かないといけなくて、今新しい事務所を探し中です。ゆくゆくはまた大熊町に事務所を構えられたらなと考えたりもしています。

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株式会社 いんふぉ.
Info URL:http://www.i-info.jp/
Twitter:https://twitter.com/info_sousou
Facebook:https://www.facebook.com/sosoinfo
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2018年6月取材
文/写真:S/T

浪江町