ふたば未来学園

ふたば未来学園

平成27年4月に広野町に開校した「福島県立ふたば未来学園高等学校」。
同校校長・丹野純一先生よりご寄稿頂きました。

 平成27年4月に福島県双葉郡広野町に開校した「福島県立ふたば未来学園高等学校」の1期生の約8割は、震災と原発事故という、人類が経験したことのないような災害に見舞われ、避難生活を余儀なくされた双葉郡出身の生徒たちである。避難先を転々とし、慣れない土地や学校での生活で、筆舌に尽くしがたい困難に遭い、未だにそれに向き合っている生徒も少なくない。また、地震、津波からの復興が着実に進む一方で、原子力災害が地域の間、人々の間に残した爪痕は深く、生徒が将来にわたり様々な困難に直面する状況は今も続いている。一方、こうした状況において、なんとかこのふるさとを取り戻そうという気持ちや、志を持った生徒がたくさんいるということも事実である。
 また、少子・高齢化、過疎化、産業空洞化などが全国的に深刻化する中、震災と原発事故はこれらの課題を先鋭化させ、福島県、特に双葉郡をはじめとする浜通りは、いわば課題先進地域となっている。
 このような中、私たちは、これまでの価値観、社会のあり方を根本から見直し、持続可能な循環型社会の実現、自立した新たなコミュニティ・まちづくり、再生可能エネルギー社会の実現など、新しい生き方、新しい社会の建設を目指し、変革を起こしていくことが求められている。それは、震災と原子力災害を経験した私たちに、未来から課せられた使命、ミッションということもできる。多くのものを失ったからこそ、他の地域ではできないような、野心的で未来を先取りするような新たな挑戦が求められている。ふたば未来学園高等学校は、まさに、未来への挑戦である。
 以上の考えから、「自らを変革し、地域を変革し、社会を変革する『変革者たれ』」、これを建学の精神、すなわち教育目標とした。
 この教育理念を建てるに当たっては、「双葉郡教育復興ビジョン」の提言や「OECD東北スクール」の成果、さらに現在休校となっている双葉郡の高校、地域の方々の想いを十分踏まえ、礎とした。以上の教育理念のもと、先進的な教育プログラムである「未来創造型教育」を力強く展開している。
 1年次には、地域の商店街や役場でフィールドワークを行い、そこで見いだした解決困難な課題を題材とした対話劇を作り、地域の方々に発表する。自分や家族が置かれた境遇と葛藤しながらも、東電と被災者との間の対立、除染作業員と住民とのあつれき、風評被害、高齢化などのテーマに取り組んでいる。ポイントは地域の課題をありのままに見つめ、表現することにある。
 2年次には、生徒全員が6つの探究班に分かれ、福島県や双葉郡復興への課題を解決するための学習を展開する。各探究班では、机上の学問で終わることなく、地域の課題を解決するプロジェクトを実行に移す。その中で、地元住民や行政・企業の方や専門家等を講師として招へいしたり、フィールドワーク・インタビューなどを交えたりしながら、双葉郡に密着した取組を行っている。
 3年次には、探究の成果を国内外に発表、国や自治体に提言を行うと共に、論文としてまとめ進路実現につなげていく。
 この過程で、地域が直面する課題解決の方策を探りに、ベラルーシやドイツ、アメリカなどを訪問し、特に国連では世界各国の高校生と移民・難民問題について討議するなど学びを広げ、深めている。
 このような学びの中で、生徒たちは、それぞれが困難を乗り越えて新しい一歩を踏み出している。中学校時代つまずいた生徒も、見事に自らの変革を成し遂げ、毎日学校に登校し、学習や部活動などで充実した学校生活を送っている。
 前例のない取り組みを同時展開する中で、学校経営・運営上の課題は山積しており、その困難性も極めて高い。しかしながら、まさに「変わろう」としている生徒たちの姿こそが希望であり、双葉郡の未来であると、日々思いを新たにしつつ、双葉郡の、福島の子供たちが手を取り合って未来を切り開き、それぞれの地域で「変革者」となる姿を思い描きながら、失敗を恐れず挑戦し続けていきたい。

 

福島県立ふたば未来学園高等学校長 丹野純一